改めてテキストや教科書を読む効用について
司法試験の世界では、ちょっと前に7回読み勉強法が話題になりましたが、今回は改めてテキストや教科書を読む効用について語ってみたいと思います。
テキストを繰り返し読んで基本的事項の理解を深め徹底的に復習することの効用は昔から強く言われていたことですが、教科書をしっかり読み込むことの効用が強く言われるようになったのは新司法試験になってからですし(遥か昔のことは知らないので、半世紀前の予備校もほぼない時代には言われていたかもしれませんが)、効果はある程度あるにしても実際どれだけ効果があるのか、他に良い方法があるのではないかはいまいちよくわからないところです。
世の中には、教科書はほとんどいらない派の方も結構いますし、テキスト読み込むよりも徹底的にアウトプットしたほうがええんや派の方もかなりの数いるわけですが、「勉強がある程度進んでからも改めてテキストや教科書を読んだほうがよいのではないか」という話をしたいと思います。
○メリット
・基本的事項の復習になる、理解が深まる
司法試験では答案練習などのアウトプットが非常に重要と言われていますし、実際その通りですが、アウトプットを適切にするにはインプットをしっかりしておかないといけませんし、答練→復習→答練→以下、ループという過程を踏まずに、ただ書くだけの練習をしても学習効果は薄くなってしまうため、徹底的な復習は必須となります。
予備校のテキストはわかりやすく話をまとめてくれているので、記憶の整理には非常に役立ちますし、定期的に見直せば記憶を定着させるのに非常に役立ちます。部分部分を読むのもよいですが、通読すれば体系的な理解が深まると思います。
教科書の方は、試験に出ないようなことも書いていますし、試験対策という観点からは直接使いにくいところも多いものの、学者が何十年もかけて研究した成果が表れていることもあって、理解を深めるのには役立ちます。教科書ばかり読んでいても教科書の内容を司法試験でうまく答案化するのは難しいため、予備校の力に頼らず合格までたどり着くのは難しいでしょうが、理解を深めるという点では役に立つのでたまには読んだほうが良いと思います。
・論述をより正確に書きやすくなる、応用がききやすくなる
長い間勉強していると、判例がだいたい何を言っていたか、どういう説をとっていたかはわかるでしょうが、「だいたい」の理解で「だいたい」の論述しかできないよりは、より正確な理解で正確な論述をするほうが良いに決まっています(だいたいしか書けないと簡単に30点台が取れるぞ!)。
何度もテキストや教科書を読めば、それだけ判例の文言をしっかり読み込む回数が増えるため、判例が用いている文言の意義を正確に理解し、答案に表現しやすくなります。
論証集も有用ですが、テキストや教科書を読めば、なぜそのような論証になるのかや、事例のあてはめをどうするかといったことがわかりやすいですし、一つの判例や一つの規範を覚えるにしても、その判例や規範に関する知識や理解が深ければ、司法試験で求められる応用がききやすくなるのではないかと思います。
・あやふやな部分を減らせる
いくら勉強していてもいまいちよくわかっていない部分は出てきますし、今まではよくわかっていたけどしばらくやっていなかった結果わからなくなってしまった部分も出ています。
テキストや教科書はやや細かいところや、あまり試験には出ない(けども勉強が不十分なまま出るとまずい)ところまで関われているので、網羅的な勉強には適していますし、知識や理解があやふやなところをカバーしやすいというメリットがあります。
どうしても答練ばかりの勉強となると、マイナー論点が手つかずになりやすいですし、しばらく書いていないところがあやふやになりがちなんですよね。
○デメリット
・時間がかかる
やはりしっかりテキストや教科書を読もうと思うと、時間がかかります。
とはいえ、何度も読み込んでいると、どこに何が書いてあるかはだいたい覚えているでしょうし、自分が何度やっても忘れてしまうところもわかるはずなので、かつてよりは読み込むのに時間がかからないと思います。
・あまり出ないところまで読んでしまい、コスパが悪い
確かに、答練や過去問を解いたり研究したりすることに比べると、テキストや教科書を読むことは、出題可能性があまり高くないところまで勉強してしまうため、コスパが悪くなるという危惧があります。
しかし、学習歴が長い方であれば、どういった論点が司法試験に出やすいかはわかっているでしょうし、テキスト等を何度も読んでいくうちにどこが出やすいからしっかり復習しないといけないかは把握できていると思います。本当に全く司法試験に出ないところや関係ないところは飛ばせばいいですし、出題可能性の低い部分は流して読むなどの工夫をすればよいだけなので、コスパの悪さはそれほど心配しなくてよいのではないかと思います。
・学説に深入りしすぎてしまう
学説に深入りしすぎるのは司法試験に受からなくなる典型的パターンのようですし、教科書ベースの勉強をしすぎるとそのパターンに陥る危険は高まります。
とはいえ、あらかじめ過去問にしっかりあたっておき市販の問題集をしっかり解いておけば、これは司法試験では知らなくてもよい学説である・こういう学説があるということだけ知っておけばよい・この学説はテキストで要点だけ抑えとけばよいといった判断ができると思うので、学説に深入りしてしまい迷走する事態は避けられるでしょう。
問題も解かずに教科書ばかり読むと司法試験と関係ないところで深みにはまってしまうおそれがありますが、ある程度勉強してきた人であればそういうおそれはあまりないと思います。
改めてテキストや教科書を読むことは、基本的知識・理解の復習、理解の深まり、しばらくやっていなかった分野の見直しに良いですし、答練だけではカバーしにくい網羅的な復習や体系的理解の深まりを期待できるので、たまにはテキストや教科書をしっかり読んでみてもよいと思います。
勉強がある程度進んだ方であれば、どこが重要か(重要でないところは流すか飛ばす)、自分がわかっていないのはどこか(わかっているところは流すか飛ばす)がはっきり把握しているはずです。また、昔のようにいろんなところでやたら詰まったり、まるで理解できずに時間だけが過ぎるという事態は少なくて済むでしょうし、コストパフォーマンスは悪くないでしょう。